緒方林太郎

【緒方林太郎】国連海洋法条約と慣習法

【以下はFBに書いたエントリーを大幅に加筆、修正したものです。】

 南シナ海をめぐる仲裁裁判所判決次第では、中国が国連海洋法条約を脱退する、との記事を見て、「中国がバカなことを言っている」と思う方は多いでしょう。私もそう思います。

 しかし、ここでどうしても忘れてはいけないことがあります。それは、アメリカは国連海洋法条約を批准しておらず、メンバーではないという事です。アメリカは何に反発しているかというと、深海底に関する規定でして、深海底資源を人類共有財産として、その活用が途上国寄りになっているという事です。

 そこを中国は狙ってきています。脱退を批判されたら「アメリカなんか、元々入ってない。何故、うちだけ批判されるのか?」、こういう答えが返ってくること必定です。なかなか答えにくい問いです。

 ただ、ここで重要な考え方は「国際慣習法」です。国際法の中には、(明文化されていないけども)慣習的に国際法として確立しているというものがあります。そして、こういう慣習法は国際紛争を解決する手段として認められています。というか、元々国際法は慣習法からスタートしたものでして、それを具体的な条約として確定していったというのが歴史的には正しいです。

【国際司法裁判所規程】
第三十八条
1.裁判所は、付託される紛争を国際法に従って裁判することを任務とし、次のものを適用する。
a. 一般又は特別の国際条約で係争国が明らかに認めた規則を確立しているもの
b. 法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習
(略)

 アメリカは、国連海洋法条約には入っていないものの、その多くの規定は国際慣習法化していると見なして、事実上従っています。非常にザクッとして言うと、町内会が管理しているグランドの使用については具体的な使用規定がある、町内会メンバーはそれに従ってグランド使用している、ただ、町内会に入っていない人もその規定は当然のものと思っているので、同じくそれに従ってグランドを使用している、そういう事です。

 国際慣習法とは、上記にある通り「法として認められた一般慣行の証拠としての国際慣習」です。要件は「法として認められた」と「一般慣行」です。ここで難しいのが、国連海洋法条約の規定は何処までが慣習法化しているか、という事です。慣習法化している部分はありますが(元々古くからの慣習法を条約として取り込んだ規定も多い)、そうでない部分もあるでしょう。

 もう少し簡単に言うと、国連海洋法条約の中で、同条約に入っていようが、入っていまいが当然にして従うべきものは何で、入っていない国が従わなくていいものは何かという事です。

 要件から考えると、「法として認めているか」、「(そういうルールに従うという)一般的な慣行が存在するか」、この2つで判断します。

 では、例えば、今回、日本との関係で話題になっている「国際海峡」制度は国際慣習法か、ということについて考えてみます。私は本件について昨年の質問主意書で聞いています。リンクの主意書の三と四です。私の気分的には「一般慣行」が存在していると思っているか、ということを聞いています。

 「一般慣行」という条約用語を使わずに、「各国の実行の集積」という(時折国際法の教科書に出てくる)言い方をしたせいなのですが、ろくな答弁が返ってきていません。その裏には、国際海峡制度が国際慣習法化しているかどうかを答えたくないという事もあるのでしょう。

 仮に中国が国連海洋法条約を脱退する場合、それでも中国が従うべきだと思われる同条約の規定は何か、つまり、国連海洋法条約の中で何が国際慣習法化しているのか、という判断はとても重要になると思うわけです。最近の日本領土、領海との関係で言えば、無害通航権(領海に適用)、通過通航権(国際海峡に適用)はそれぞれ、慣習法化しているか、国連海洋法条約に入っていようが、いまいが、中国はそれに従う義務があるか、という事を判断していかなくてはなりません。

 知的に難しい所です。まだ、中国が脱退したわけではありませんが、脱退したところで「好き勝手にはやらせないぞ」という事をきちんと論理的に詰めた上で、国際的に包囲網を作るための知的エクササイズはやっておくべきです。この議論は真摯にやるべきだと思います。政府も逃げてはならない所です。秋の臨時国会で取り上げていきます。


出典:http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-12173531487.html


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