緒方林太郎

【緒方林太郎】核兵器の先制不使用

 オバマ大統領が「核兵器先制不使用」を検討しているものの、ケリー国務長官や同盟国からの反対に直面しているという記事がありました。私も「それを宣言しちゃいかんだろう」と思います。

 元々、核兵器の使用については「消極的安全保証(negative security assurance : NSA)」というものがあります。ここから議論を始めないと、今の議論はさっぱり意味が分かりません。ちょっと小難しいですがお付き合いください。

 NSAとは極めてザックリ言うと「核兵器を持たない国には核兵器では攻撃しないから安心してね」という感じなのですが、ちょっとした表現の違いでバラエティがかなり広がります。

 有名なのが冷戦後、ウクライナが独立する時に米英露が提供したNSAです。ウクライナに核兵器を放棄させるために、これを約束したという事です。

【ウクライナへのNSA】

The United States of America, the Russian Federation, and the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, reaffirm, in the case of the Ukraine, their commitment not to use nuclear weapons against any non-nuclear-weapon State Party to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons, except in the case of an attack on themselves, their territories or dependent territories, their armed forces, or their allies, by such a state in association or alliance with a nuclear weapon state.

 まず、最初に「ウクライナが核不拡散条約上の非核兵器国である限り、米英露はウクライナには核兵器を使いませんよ。」と言っています。しかし、ポイントは「except」以降でして、ウクライナが核兵器国と「association」や「alliance」を持った上で、米英露やその同盟国に攻撃をしてくるような場合には、核兵器を使用する可能性を留保しています。

 つまり、ウクライナが核不拡散条約に加わっており、かつ核兵器を持っていなくても、ウクライナが核兵器国と「association」や「alliance」を持った上で米英露や同盟国に攻撃を仕掛けてくる場合は、核兵器不使用を約束していません。結果として、米英露や同盟国が受ける攻撃が(核兵器でなく)通常兵器、生物兵器、化学兵器によるものであっても、攻撃する国が核兵器国と「alliance」や「association」を持つ限りは核兵器を使う抑止の可能性を残しています。

 ここまでで分かる通り、核兵器の不使用という観点からはかなり絞り込まれたNSAと言っていいでしょう。

 なお、現在、ロシアはこのNSAを対ウクライナで守っているのかどうかは微妙です。仮に守っていたとしても、クリミアをロシアの「territory」、場合によってはウクライナ東部を「dependent territory」と見ているでしょうし、ウクライナは米やEUと「association」を強めているとこじつけるのであれば、ロシアによるウクライナへのNSAの機能は風前の灯火なのかもしれません(実際に核兵器を使うかどうかではなく、ルールとして)。ただ、本件はこれ以上は深くやりません。

 ただ、アメリカは2010年に核態勢を見直しています。

【2010年の核態勢見直し】

The United States will not use or threaten to use nuclear weapons against non-nuclear weapons states that are party to the Nuclear Non-Proliferation Treaty and in compliance with their nuclear non-proliferation obligations.

 (注:この後に、生物、化学兵器を使う相手には通常兵器で大規模な報復を行うし、将来の技術発展次第ではこの約束自体を見直すこともあると念押しはしてある。)

 これですと、核不拡散条約に加盟し、そしてその義務をきちんと守っている非核兵器国には、アメリカは核兵器を使いませんよ、ということがなります。対ウクライナNSAとの関係で言うと、以下のような点が弱いです。

(1) 化学・生物兵器による攻撃への核抑止力は(条件付きであったとしても)ない。
(2) 核兵器国と「alliance」、「association」を持っている国への核抑止力はない。
(3) 同盟国への言及がない。

 生物兵器、化学兵器に対する抑止力は、通常兵器に委ねられることになります。当時、アメリカ政府は「単に核兵器を使わない約束をするだけであって、いくら非核兵器国でも行い次第では通常兵器でボコボコにされる可能性はある。」と強調していましたが、抑止という観点からはどうしてもハードルは下がっています。将来の変更の可能性があるとは言え、ちょっと弱いんじゃないかという感じです。

 これは恐らく「核不拡散条約に加盟して、義務履行すれば攻撃しない」というメッセージで、例えば、北朝鮮とイランを始めとする国々を核不拡散体制に呼び込もうとしているのでしょう。ただ、この2010年の見直しが世界の不拡散体制強化に繋がったという事実はここまでありません。誰も撒き餌に食いつかなかったのです。

 それで、今回のオバマ大統領の「先制不使用」提案です。どういう文言で検討されているのかは知りませんが、2010年の核態勢見直し以上に何をやろうとしているのかがさっぱり分かりません。すごく雑に考えて、「The United States will not use or threaten to use nuclear weapons, except in the case of an attack on themselves by nuclear weapons」とでもするのでしょうか。

 ここからはゲームの理論を駆使して分析する必要がありますが、そのメッセージが世界各国にどう受け止められるか、どう受け止められたとアメリカは判断するか、そういう要素を勘案する必要があります。いずれにせよ、上記のような文案であるとすれば抑止力などもう存在しないと言っていいでしょう。

 北東アジアの安全保障環境を見た時、日本はアメリカに「こんなものは変な誤解を撒き散らすだけなので絶対ダメだ。」と言っておくべきです。多分、言っているとは思いますが。


出典:http://ameblo.jp/rintaro-o/entry-12190279636.html


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