奥野総一郎

【奥野総一郎】「生前退位」特別措置法の問題点

 生前退位について、「特別措置法」の制定で可能とする方向と報道されている。
私の提出した質問主意書(内閣衆質192第24号。以下「主意書」という。)に対しても、政府は「憲法第二条に規定する「皇室典範」には、現行の皇室典範のみならず、その特例や特則を定める別法も含み得る」と答弁している。
 特別措置法にする理由として「「典範に手をつければ憲法改正が見通せなくなる」(官邸関係者)」(朝日新聞2016年9月7日)との懸念が報道されているが、9条改正のためすべてを先送りする姿勢はすれば問題だ。生前退位は、憲法問題でもある。

1 「第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。」

 政府は、これまで「天皇のそういう象徴たる地位から考えまして、御自分の発意でその地位を退かれるということは、やはりその地位と矛盾するのではないか」(林修三内閣法制局長官:昭和三四年二月六日衆議院内閣委員会)、つまり自らの意志で「退位」できない、という答弁を行ってきた。「生前退位」を実現するためには、この解釈を変更しなければならない。この点について、主意書の答弁は「御指摘の憲法第一条を始めとする憲法の規定の趣旨等を踏まえて、立法の問題として検討すべき事項」と述べ、上記の解釈を変更し可能とする趣旨のようだ。とすれば、解釈の変更、つまり「日本国民の総意」が憲法制定時と変わったという説明が必要になる。この「総意」とはいかなる内容か、そしてどこに示されているのか、議論が必要である。有識者会議の6人の委員の意見が総意と考えるのは無理がある。厳密に解釈すれば、憲法2条の改正につながるのではないか。

2 「第二条  皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範 の定めるところにより、これを継承する。」

 当時の高辻正巳内閣法制局長官は「憲法の第二条の、皇位は「国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」という規定を受けまして皇室典範があって、これもご指摘のとおり第四条「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」ということで、退位の御自由がないというのが現行の憲法及び法律のたてまえであります。」(昭和四六・三・一〇衆・内閣委)と答弁し、さらに、この皇室典範第四条を改正することで「退位」は可能となる旨趣旨の答弁を行っている。
 この解釈が維持されているのか主意書で指摘したところ、「特別措置法」も憲法第二条の皇室典範とする上記の答弁が返ってきた。「特別措置」の意味は一回限りということであろうが、皇族の高齢化も進む中で、「特例」で良いのだろうか。
 やはり、従来の見解どおり、恒久的措置として皇室典範第四条の改正によるべきではないか。退位の要件や退位された後の「身分」「呼び名」についての規定も、現行の皇室典範に設けるべきだ。
 さらに、実際に陛下が退位された後、現状では皇太子が不在になるが、「皇太弟」を設けるなど皇室典範の規定の整備が必要となる(主意書で指摘したように、皇室典範第十一条第二項は皇太子不在を想定しておらず改正すべきだ)と考えられるが、これは特別措置法では無理だろう。
 一般に特別法は、屋上屋を重ね、法の一覧性を損ねる。租税特別措置法が良い例であり、こうした特別法はなるべく設けないようにすべきだ。

 今回の問題は、皇位の継承に関わる重要な変更を含む。現行の皇室典範の改正によるべきであり、特別措置法によるべきではない。時間がかかるというのであれば、憲法改正よりも先にこちらを議論すべきだ。「生前退位」も重要な憲法問題の一つである。


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