緒方林太郎

【緒方林太郎】アメリカ大統領選挙とTPP交渉とEU

【以下はFBに書いたものを大幅に加筆修正したものです。】

 アメリカ大統領選挙がこういう事態になるとは予想していませんでした。そういう中、衆議院本会議でTPP協定及び関連法案が通過しました。協定については、国会を延長さえすれば憲法の規定により30日後には自動成立です(ただし、関連法案はそうではありません。そして、関連法案が成立しないと批准書の寄託はありません。自動成立ばかりを強調するマスコミには違和感を感じます。いずれにせよ参議院でも採決まで漕ぎ着けないといけないのです。)。

 ところで、今後のTPPについてですが、国会での議論を通じて、私がTPPについて「蓋」をしてきた将来的可能性が幾つかあります。広義での再交渉、見直しに当たるものを丁寧に「これはやりませんね。」と蓋をしてきました。TPP特委よりも前の、通常国会での衆議院内閣委員会での議論でかなり石原大臣と激しく議論した結果です。

【国際法】

  • 再交渉:これはTPP協定そのものの再交渉を指します。
  • 法的拘束力のない文書での新しいコミットメント:口上書、解釈了解、サイドレターといった法的拘束力のない文書で追加的なコミットメントをすることを指します。
  • TPPとは法的には別物となる、新規の追加協定:別協定の交渉をして事実上、TPP+αを作ろうとする動きを指します。

【国内法】

  • 国内法の追加的改正:これはアメリカがよくやる手法でして、協定は変えないけど、それを実施するための国内法での追加的コミットメントを求めることを指します。
  • 政省令での対応:法律は変えないけども、政省令で何らかの対応をすることを指します。一番わかりやすいのは、畜産物の価格減少時の補てんを行う通称「マルキン」の補填率を8割から9割に上げることが予定されていますが、これは省令事項です。アメリカからの圧力でこの率を現状維持とするようなものをイメージしていただければと。

 これらの可能性については、すべて「やらない」という答弁を、私は政府から取り付けています。「そんなの簡単だろ。聞けば答えてくれるだろ?」と思う方もおられるでしょうが、かなり骨が折れました。石原大臣は一発では応えてくれなかったのです。当初、国内法の追加的改正には「想定されない」という答弁が用意されていたようで、そればかり言うので、「想定されるから聞いているのです。」と何度も詰め寄って、最終的に「やらない」という答弁になりました。

 しかし、遠からず、トランプ大統領による「再交渉」要求が出てくるのではないかなという気がするのです。というのも、例えば、既に発行している日豪EPAでオージービーフの価格が下がります。冷凍については、最終的(15年後)に38.5%→19.5%、冷蔵については38.5%→23.5%まで下がります。しかも、この削減は1年目でガンッと下がり、その後徐々に下がってこの水準ですので、即効性があります。TPPではこれよりも下げ幅が大きく、9%まで下がる予定でしたが、これが反故になるとアメリカンビーフが日本市場で明らかに売れなくなっていきます。アメリカの牛肉生産者からすると、BSEで失った日本市場シェアをようやく取り戻したのにまた、手から溢れていくという印象でしょう。

 トランプ新大統領はそれを知らないはずです。早晩、テキサスの牛肉業界から突き上げられるでしょう。普通に考えると、そこでトランプ新大統領が口にするのは「再交渉」です。牛肉だけの交渉などそもそも成立しないでしょうから、やはり包括的な「再交渉」を言ってくると思うのです。

 当初はもしかしたら「アメリカだけ9%に下げろ」と言ってくるかもしれませんが、GATTにおける最恵国待遇の原則に反します。最恵国待遇の例外を構成するのは、GATT24条における自由貿易協定でしかありません。なので、これは国内法のみでは対応できず、アメリカンビーフに対して関税を下げたければ、GATT24条の自由貿易協定に依拠せざるを得ません。

 ここで心配なのは、安倍総理による第二の「新しい判断」が来そうなことです(つまり、上記の蓋を開け始めるという可能性。)。一度前例があるだけにとても気になります。これは絶対にダメです。そういう判断をしないよう、しつこく、しつこく我々野党も政府に圧力を掛けていかなくてはなりません。

 まずは、「トランプ大統領に何を言われても、絶対に上記の蓋を開けない。『新しい判断』を絶対にやらない。」という国家的なコンセンサスを作り上げていく事が必要です。その上で、私がもう一つ提案したいのは、「EUとの自由貿易協定を年内に纏める。そして、来年さっさと国会を通して発効させる。」という事です。

 元々、EUとの交渉は佳境に入って来ています。先日、関係者と話しましたが良い所まで来ていそうです。来年になると、フランスの大統領選挙・国民議会選挙、ドイツの連邦議会選挙等、政治の季節に入ってきます。そこでのコミットメントが難しくなる以上、単にEUとの関係でも今年中に纏めるのが賢明です。

 それだけではないのです。EUとの間で交渉を纏めて発効させると、アメリカへの圧力になるのです。農産品で言うと、まずは豚肉でしょう。主たる産地はデンマークです。仮にTPP並みの削減をEUに約束するとしましょう。高級豚肉は関税ゼロですし、低価格帯ものもかなり下がります(制度が難しいので、具体的に言いにくいのですが。)。放置していれば、アメリカ産豚肉はデンマーク産に駆逐されていくでしょう。

 EUとのEPAが纏まると、これまでの豪州とのEPAと相まって、畜産業でもの凄い圧力がアメリカに掛かるという事なんですね。他分野でも同じような例はかなりあります。日本はそれに悶えるアメリカを静かに見ていればいいのです。

 ただ、一つ気になる事があります。私の経験からして、EUとの自由貿易交渉というのは、TPPと同じくらいの政治的なコミットメントが必要なはずなのです。EUとやるのと、アメリカとやるのでは、最低でも同じくらいのエネルギーが必要です。

 実を言うと、EUとやる時はEUという主体とだけ交渉すればいいのではありません。貿易についてはEUに権限が集約されていますが、例えば、投資分野ではEUに権限が集約されていません。なので、そこは各加盟国がうるさい事を行ってきます。最近、EUとカナダのEPA交渉の最終局面で、ベルギーのワロン地域議会が反対した事で大揉めに揉めた事がありました。ベルギーという国の議会ではないのです、ワロン地域の議会です(あの国は諸事情から地方分権が究極まで進んでいるので。)。関係する主体が多いだけに、それだけ大変なのです。

 何が言いたいかというと、対EU交渉専任の国務大臣置いた方がいいんじゃないかな、ということですね。まだ、交渉すべきテーマは残っており、その中には政治の判断が必要な大玉が幾つかあります。

 長々と書きました。衆議院の審議では、こういう事もやりたかったんですけどね。


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