篠原孝

【篠原孝】狂ったカジノリゾートは百害あって一利なし-外国人観光客を呼ぶなら農村リゾートに投資すべし― 16.12.13

<姑息な会期延長に乗じた審議入り>

 安倍政権の目玉は何といっても三本の矢だった。一本目の矢の金融緩和は成功し、円安となり輸出企業は史上最高収益を上げ株価は上がった。しかし、2本目の矢の財政出動は、いかんせん財政難でうまくいかなかった。期待の三本目の矢の経済成長戦略は、何一つなく、いつの間にかTPPがその中心となっていた。
 ところが、それもトランプ勝利で完全に吹っ飛んだ。そこに突如出現したのがカジノである。酷いことに6時間だけの審議で強行採決してしまった。議員提案として既に提出されていたものを、11月26日の強行採決で衆議院を通過した年金法(野党は「年金カット法」政府は「将来年金水準確保法」と呼ぶ)を通すため、11月30日に閉会のところを2週間延長して12月14日までとなったのに乗じての、いわば「騙し討ち」である。3つの強行採決の中で最も酷い。

<何でTPPの代わりがカジノなのか>

 あまりにばかばかしくて、空いた口が塞がらない。TPPは、政府は13兆円のGDP押し上げ効果があるというが、根拠に乏しい。それでも一応、そんなものなのかなぁと思わせないこともない。ところが、カジノで日本の景気を浮上させたり、経済成長の引き金になるなどということは、どう転んでも考えられない。そうだとするなら、TPPも所詮ギャンブルだったにすぎないというのか。
 だから、あの安倍政権ベッタリの産経や読売でさえも反対し、5大全国紙すべてが否定的な社説を書いた。当然である。これは5大全国紙がTPPを最初からこぞって盲目的に支持しているのと大違いである。
 私は役員をしている他の会合が重なり、民進党の2度の議論に参加できなかったが、出席したら以下のように迷(?)発言する予定だった。

<党内会合で用意した未発表発言>

  1. 大体民進党は野党なのに、旗幟を鮮明にしないから国民の支持を得られない。十分な理由がなくとも、三分の理ぐらいあったら反対してよい。それを5大全国紙が皆反対し、国民の半数以上が反対するカジノを賛成するなどもってのほかだ。国民の声をバックに政府のおかしな政策を突っついていくのが野党の大切な役目。それを発揮しないで何の野党第一党か。
  2. そもそも政治はギャンブルかもしれない。まともな仕事をやめて、危険の大きい政治の道に入るなどまさにギャンブル。だから政治家がギャンブル好きだったり、気がひかれるのはよくわかる。しかし、それは自分の密やかな趣味にとどめるべきで、国民を巻き込んではならない。

 大体今この場にいる者は、悪しき勝者だから議員になっていられる。落選して途方に暮れている元同僚も数多くいる。まさにギャンブルの敗者ともいえる。国民の大半を敗者にしてはならない。
 ギャンブルの依存症、多重債務問題、マネーロンダリング、やくざの裏金、青少年への悪影響等問題だらけだ。こんな法案は、TPPや年金法以上にとんでもないもの。反対以外にない。

<物造りを忘れたアメリカの凋落>

 アメリカは1987年に始まったガット・ウルグアイ・ラウンドでは、新3分野と呼ばれる知的財産権、海外投資、サービスを重要視して交渉を行った。日本もEUも農産物関税の削減が問題だったが、アメリカは将来の金目となる分野に目がくらみ、肝心要の「物造り」製造業を蔑ろにしたのである。そして、国際投資協定も目指したが、フランスの反対で頓挫してしまった。その後もドーハラウンドでも同じ戦略で臨んだがうまくいず、目をつけたのがTPPだった。
 今、アメリカの製造業は、象徴的存在である自動車産業すらガタガタであり、気をはいているのは軍事関連産業(その延長所の航空機産業)、IT産業、医薬品・医療機器ぐらいである。国家は、物を横から横へ流したり、金をいじくりまわして儲けるだけでは成り立たない。国民が必要とするものを国民が汗水たらして造り、経済を造り上げて行くのが王道である。
 過激と思われるトランプの一連の発言はこの根本に戻ったものであり、アメリカ国民にも支持される理由がある。

<日本の国柄に合わないカジノ>

 そうした地道な産業の対極にあるのがバクチ産業でありカジノである。世界中に勤勉な日本人という声価がある中で、カジノにうつつを抜かすというのは、世界からの日本の評価を低めることにしかならない。
 いくらTPP発効の見込みがなくなったからといって、アベノミクス三本の矢の最後の経済成長戦略の柱がカジノではみっともないかぎりである。こんなもので経済成長などというのは邪道もいいところである。アメリカでもヨーロッパでもカジノは飽和状態である。そういえば地方競馬、競輪、競艇も売上が減っているという。私もアメリカのラスベガス、リノ、アジアのマカオ、シンガポールのカジノにも足を踏み入れた。こんな所で数億円を費やした故浜田幸一衆議院議員や大王製紙の御曹司の気が知れず、日本になくてよかったと安堵したものである。

<地方創生ならカジノより「農村リゾート」>

 突如観光立国が叫ばれだし、都市の外国人観光逆の目標が2千万人がまたまた膨れ上がって、20年に4千万人、30年に6千万人いる。そこでもう一つの集客にカジノをと気を出した。しかし、日本にギャンブル目当てで観光に来る人は一体何人いるのだろうか。そもそも「美しい国」(安倍総理の著書のタイトル)に厚化粧のカジノや大型リゾート施設はミスマッチである。観光はいいとしてもっと他にある。その一つが日本の美しい自然、そしてほとんどの人が気づいていないが美しい農村である。ところが、貧弱な農政で農村が衰退し、荒れ放題であることが悲しい。日本のなんてことない農村を歩き回れるようにしたほうがずっと効果的である。地方創生というなら、お台場(東京)、山下埠頭(横浜)、夢洲(大阪)ではなく「農村リゾート」であるべきだ。

<江戸末期も今も外国人にとって日本の魅力は美しい国日本>

 日本旅館、そして農家民宿で暖かい日本人の心からの「おもてなし」に触れれば、日本のファンがもっともっと増えるに違いない。日本の半自然、つまり日本人が手を加えた町や田んぼの調和のとれた美しさに目を見張ったのは江戸から明治にかけて訪れた人たちである。一様に絶賛している。そしてその流れは今野変わらない。
 最近でいえば、私の記憶では20~30年前のオーストラリア大使夫人が気づいて日本の地方をよく回っていた。変わってところでは川勝平太静岡県知事も日本は「ガーデン・アイランド(庭園の列島)」と日本の国の美しさを強調している。

<大型アホバカリゾートの二の舞はごめんだ>

 私はカジノ法案騒ぎで、30年前を思い出した。中曽根内閣は民活とやらを喧伝し、名前も同じく「リゾート法」(総合保養地整備法)を推進した。その時建設省の担当補佐が増田寛也(後の岩手県知事)で、農林水産省の窓口は篠原企業振興課補佐の私で、何回も各省折衝をしたのを覚えている。
 当時私はモノ書きが始まり、各地に講演を頼まれていた。そこで「大型アホバカリゾート」は成功せず、すぐに瓦解すると言って回った。役人の分際なので活字にはしなかったが、10年も20年も経った頃、あちこちの関係者が語呂のよかった「大型アホバカリゾート」という罵り言葉を覚えていてくれ「篠原さんの予測どおりとなった」と声をかけられた。宮崎のシーガイア(フェニックス)、福島の磐梯等ほとんど失敗した。
 今回のカジノ解禁法も総合型リゾート法(IR)とぞっとするような同じ名前で呼ばれる。政府の内需拡大政策、観光振興(今は外国人目当ても)、地域振興(今は地方創生)等も瓜二つである。まるでデジャヴ(既視感)そのものである。
 日本から「大型アホバカリゾート」が消えたと同じく「狂ったカジノリゾート」は百害あって一利なしである。


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