大野元裕

【大野元裕】アレッポとモースル:人民の犠牲の上に・・・

 シリア第二の都市アレッポが政府軍の前に陥落間近となっている一方、隣のイラクではモースルが政府軍等に包囲され、イラクにおけるISILの活動に終わりが見え始めている。両国に住んでいた者として、このような報道に接し、久しぶりに両国の状況にコメントさせていただきます。

 シリア並びにイラクにおけるISILは、他の地域とは異なり、上意下達のしっかりとした命令系統及び前線を構成する戦闘などの組織性を見せてきたが、モースルという基盤を失えば、彼らの勢いは確実にそがれることになろう。イラクにおけるISILは、2014年のモースル陥落の際に武装解除させた正規軍の兵器を入手し、合流した旧イラク軍人の知見と共に強力な勢力として君臨した。宗派や部族の論理の中で置き去りにされてきた一部の勢力からは、解放軍ともみなされた。しかしながら、米国の強力なてこ入れを得てイラク軍が増強されると、彼らの進撃は、不満を有する部族勢力が優勢を占める地域を南限として止まり、イラク軍との間で一進一退の攻防が継続するに至った。その後のイラク政権の遅々としてではあったものの、安定、さらにはISILの暴挙による人心の離反等もあり、モースルを残し、多くの拠点がイラク政府軍とクルドのペシュメルガの前に陥落した。現在では、モースルは包囲され、西部のシリア国境に至る通路も遮断されて、ロジスティクスおよび退路が断たれている状況にある。このような中でもモースルに対する空爆は継続する一方、ISIL側は住民を「人間の盾」にして抗戦しているとされている。

 シリアにおいては、2011年の大衆蜂起以降、反体制派がアレッポ東部を拠点にバッシャール・アル=アサド政府軍と対峙してきた。シリアの反体制派は米英仏等の支援を受けながらも国を率いる指導者は現れず、空中戦を中心に優勢を保ってきたシリア軍の弾薬が尽きるのを待つ状況にあった。しかし、ロシア並びにイラン等によるシリア政府軍への支援が増強されるに至り、一種のパリティ(勢力均衡)が現れ、第三局として君臨してきたISILを放置するわけにもいかない中で、状況は混迷した。その中でも、バッシャール退陣を柱とする政府と反体制派との間の和平交渉は、米英仏GCCと露イランとの間の綱引きとなって難航し、いずれも引くことができない中で戦闘のみが継続してきた。

 シリア並びにイラクの状況は、政治的な進展が見られない中で、多くの国民が犠牲となり、その苦しみの上に様々な勢力の利害が追及されてきたという意味で共通している。しかし、現在では、長年継続してきた状況が一変する可能性が出てきている。
 シリアでかりに米英仏やサウディアラビアが支援する反体制派が軍事的に勝利したとしても、さらに長期間の混迷が継続し、シリアにおけるISILの延命が実現するであろう中、人道の敵であるバッシャール政権がシリア全土に影響力を持つことが、最悪の中の選択ではあるものの、最も現実的かもしれない。政府軍の攻勢は、米国選挙の結果やイランとロシアの国際社会の中での発言力強化も背景にあるであろう。今後は、サウディアラビア等の域内諸国や欧米をはじめとする国々がロシア等を介することを含めた直接的・間接的な圧力をかけながら、反体制派の将来を含めて軟着陸をさせつつ、ISILのシリア国内の拠点に対峙することが必要と考えられる。
 モースル住民もまた、ISILの人質となる中で苦しみに直面している。最終的にはモースル解放がなされる可能性が高まっているものの、その可能性が高いからこそ、可能な限り犠牲は抑えられなければならない。一枚岩ではなくなっているモースル内部のISIL勢力の分断を含め、現在注力する分野は空爆だけではないように思えてならない。いずれにせよ、サッダーム政権崩壊以降最大のイラクの課題である融和と統一が、ここでも試されることになろう。
 両国の抱える闇には深いものがある。アレッポ陥落にせよ、モースル解放にせよ、それだけで問題が終わるとは全く思えない。それ以上に、政治的な思惑が渦巻く中で犠牲になってきた住民たちが、再び大きな犠牲にされかねない状況になっていることが懸念されてならない。


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