篠原孝

【篠原孝】ほとんど成果なしの安倍・プーチン会談 -共同経済活動は漁業から始めるのがベスト- 16.12.23

<ロシア、プーチンが一枚も二枚も上手>

 私は、安倍経済外交の度重なる破綻の原因は、官邸に巣食う経産官僚(政治に媚びる官僚「政僚」)の策動と批判したが、15,16日の北方領土交渉は期待していた。そして、少しでも進展してほしいと願っていたが、残念ながら全く期待はずれに終わってしまった。やはり、こうした外交は大国ロシアが、そして長くクレムリンの主を維持しているプーチンの方が一枚も二枚も上手(うわて)であった。日本国内では数の力でやりたい放題の安倍総理も、ゴリ押しできない厳しい国際政治の洗礼を受けたことになる。

<安倍晋太郎を意識した北方領土返還交渉>

 私は批判は控える。なぜなら、70年の上ほとんど進展していないこの手の懸案は、長期安定政権でしか手が付けられない。もしも9年も安倍総理がトップの座に居座るとするならば、憲法改正などではなく、北方領土返還こそ成し遂げてほしいと思うからだ。そうでなかったら、とっとと退陣してもらわなければならない。相手も8年(2000年~08年)2代目大統領をやり、また2012年に4代目として復帰した強者(つわもの)である。
 マスコミは安倍政治の源流に祖父岸信介を出す。しかし、父安倍晋太郎を意識していないはずはない。なぜならば、安倍外相の時に秘書官として政治に関わり出し、その時に対ロ外交を経験しているからである。私も一度か二度だけだが、山口県出身の農水省の先輩に連れられて、病状が思わしくない安倍外相の勉強会にお邪魔したことがある。気付かなかったが、そこに晋三秘書官もいた可能性が高い。私は後々自民党の有力政治家のこの手の会合に行くことが多くなったが、そのはしりだったかもしれない。

<父のやり残した仕事の仕上げは見上げた心情>

 その子息安倍晋三が、志半ばで亡くなった父君の遺志を意識して政治をやらないわけがない。その証拠に、遅刻常習犯のプーチンの到着が遅れている間に父の墓参りをしている。親子の心情としてよくわかることであり、私は美しいことだと思う。
 私は、日本を壊すTPPや何の必要性もない憲法9条改正には大反対だが、北方領土返還交渉はむしろ手伝いたいぐらいの気持ちで応援していた。日米同盟が日本外交の基軸といいつつ、あまり気の合わないオバマ大統領とはそれほど会わず、プーチン大統領との会談が15回を数えるのは、北方領土返還を成し遂げようという素直な気持ちの表れだろう。

<日本を制裁解除の道具として利用せんとしたプーチン>

 途中まではうまくいっていたに違いない。クリミア半島の併合により経済制裁を受け、G8からも外されたロシアにとって、日本はそこに穴を開ける糸口と考えてくれるかもしれない好都合な存在である。西側諸国が挙ってソチ冬季五輪の開会式をボイコットする中、安倍総理だけは出席した。ロシアも日本にはアメリカのきついタガははまっているが、北方領土返還絡みの経済協力まで止めることはできないと踏んでいたに違いない。

<「北のサウジアラビア」の「東方シフト」>

 プーチンは2期8年のルールに従い一旦は大統領の座を退き首相になっていた。ただその間もメドベージェフとのタンデム体制では、実質的にはトップリーダーだった。2012年から始まった2回目(3期目)の4代目大統領として満を持して外交を展開している。
 2000年からの1回目は原油高に支えられ、経済も好調だったことから、強気の外交を展開した。その高飛車な資源外交振りは、原油を背景に我が物顔に振舞うのが似ていることから「北のサウジアラビア」と羨ましがられた。
 ところが北米のシェールガス開発や原油の生産増等による原油安により、一気に立場が悪くなった。かつてのソ連邦諸国が皆西側になびくことに苛立っていたプーチンは大ユーラシア主義を掲げて「東方シフト」を展開し、アジアにそしてシベリアに目を向けざるを得なくなった。2013年12月大統領教書演説で、シベリア、極東開発が21世紀の国家的プロジェクトだと訴えた。そのため中国をも利用せんと接近し、警戒しつつも良好な関係を維持している。

<プーチンにも2018年選挙が待っている>

 そして次は日本である。日本の経済力と技術力がシベリアにはなんとしても不可欠である。アジアの経済成長に引っ張られ、オバマも大西洋から太平洋へのリバランスを唱えた。プーチンもそのアジアの象徴的存在の日本国の安倍になびくのは当然だった。ただ、プーチンの狙いはあくまでも日本の金が先であり、8項目の経済協力プランだけは高く評価していた。平和条約や北方領土返還はその後の話にすぎなかった。何故ならば、2018年には2期目を迎える選挙が控えている。クリミア半島を取り返し、支持率をのばすプーチンも、北方領土はいかに遠くにあろうとはいえ、下手に妥協すると国民はそっぽを向く。だから今は動きにくい。

<トランプ出現と原油安がプーチンの外交姿勢を変える>

 そこにもってきて、プーチンに盛んに秋波を送るトランプ大統領の出現である。12月15日、安倍・プーチンの首脳会談の日にEUの対ロ経済制裁の半年間の延期が発表された。その点では、EUの動きを打ち消す日ロ共同経済活動の値打ちは十分にある。プーチンはこれを知っての訪日だった可能性もある。しかし、アメリカがロシアに対して宥和的態度をとらんとしている中では、日本の制裁解除や西側諸国との仲直りの窓口としての役割は大きく低下する。
 経済大国日本の価値は依然として残る。ただし、OPECが減産に公言するなど、原油安に一応の歯止めがかかりそうである。再び豊富な石油・ガス資源を背景にして、資源外交が展開できる可能性が出てきた。従って、ここでも日本のロシア(プーチン)側から見た利用価値は大きく低下する。
 つまり、国際政治情勢も原油を巡る経済情勢も、ここ数ヶ月で大きな変化をみせ、タイミングが悪かったのである。もしもクリントンが勝利し、引き続き原油安が続いたなら展開は変わっていただろう。国際政治のパワーバランスが見事に反映されたのが今回の安倍・プーチン首脳会談である。北方領土返還交渉にはならず、昔からある共同経済活動という、どうといったことのない結果しか生み出せなかったのは、このためである。

<ロシアに戻ったクリミア半島>

 ロシアは19世紀半ば、クリミア戦争で敗北した。この去就はロシアにとって重要だった。そのクリミア半島はフルシチョフの時代にウクライナに編入したものである。それをプーチンは強引に取り返した。外野がいくら国民投票がおかしいなどとクレームをつけても、NATOにも加盟せんとするウクライナに帰属させておくわけにはいかないというプーチンの決意は固い。
 そんなに甘くないが、プーチンは領土の返還をクリミアで経験しているのであり、時間をかければ少しずつ返還することはありうる。札ビラで頬を叩いたりしてロシアの誇りを傷つけてはならない。ロシアの国際的立場と経済情勢をよく見ながら、今後も粘り強い外交に展開していかなければならない。

<漁業の共同活動から始めて協力の見本を造る>

 何れにしろロシアは日本の金ばかりではなく、地域資源を活用して島を振興するノウハウに期待している。国後・択捉も共同で開発していけばよい。北方四島の日ロ協力と大国同士の経済協力の見本をすべきである。どちらの法律を適用するかなどということに拘っていては先に進めない。その点では、漁業が一番てっとり早い。
 北方四島周辺は世界有数の好漁場である。漁業民族日本にとって大切な漁場であり、資源管理もルーズなロシア漁民に管理を任せておいては、海の貴重な漁業資源も枯渇しかねない。漁獲したところで、行き先は日本人の腹の中であり、利益がロシアにも十分行き渡る。一刻も早く手を打つべく、漁業から共同経済活動を始めていく必要がある。


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