山内康一

【山内康一】ネットがトランプ現象を生む

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トランプ現象にあらわれている排外的なナショナリズムに陥らないようにするにはどうすればよいか。インターネットばかりから情報を得ずに、読書によって知的基礎体力をつけることの大切さ、民主主義の劣化を防ぐためにインターネットの使い方に注意すること等を民進党福岡県第3区山内康一総支部長が訴えています。

出典 : http://www.kou1.info/blog/politics/post-1259

トランプ現象の背景には、格差の拡大、中流階級の没落などが言われていますが、大きな要因のひとつはインターネットの影響だと思います。「アメリカ人がインターネットに依存して、本を読まなくなり、無知になり、判断力が弱くなった」と多くのアメリカ人が嘆いています。

たとえば、数年前に経済学者のジェフリー・サックスは、次のように書きました。

近年、脳神経科学者が最も危惧しているのは、ネットサーフィンをしていると刺激に関する短期的な反応がよくなる反面、長時間の集中力が低下するのではないかということである。インターネットでは画面にざっと目を走らせるだけで、じっくりとは読まない。ネットサーフィンと読書は、感情的にも認識の上でもまったく別ものである。ネットサーフィンでは、すばやく事実を拾いあげられるが、記憶にとどめておける時間は短い。(中略) アメリカ人が読書をしなくなるにつれて、基礎的な知識をもたない人が増えてきた。とくに気候変動のような政治論争の的になっている問題について科学的な事実を知らない人が多すぎる。

5年ほど前の本なのに、地球温暖化を否定するトランプ氏のことを指しているかのようです。トランプ氏の発言には多くの誤りや嘘が含まれていることも問題ですが、それを問題視しないアメリカ人が増えていることの方がより大きな問題です。日本でも同じことが起きているのではないでしょうか。

新聞やテレビで報道されているニュースや政策を少しは知らないのは恥ずかしい。そういう感覚が薄れていくのが、ネット社会の怖さです。少なくとも大手の新聞や出版社の記事は、編集者のチェックが入り、単純な誤りや根拠のない情報(=裏の取れていない情報)は多くありません。しかし、ネットで出回っている情報は、検証不可能なもの、いい加減なもの、単なる思い込みや憶測の記事なども多いです。

また、ネットメディアでは、関心のある情報だけを拾い上げ、関心のない情報は素通りしていく傾向があります。紙の新聞であれば、関心のない情報も自然と視野に入り、見出しくらいは目に入ります。テレビのニュースでも、自分が無関心な情報も自然と目に入ります。自分には関心がなくても、世間で注目されているニュースに接する機会があるのが、新聞やテレビの報道番組のよさです。それにより社会全体で共有される情報が生まれます。

インターネットの世界では、自分に関心のない情報に接する機会がなくなり、知識が偏ります。知識が偏ることで、社会の分断化が起きます。トランプ氏が地球温暖化についての基本的知識がないのも、ツイッターやテレビのバラエティ番組ばかり見ているせいかもしれません。社会人として最低限共有すべき知識が欠如した状態では、まともな政策論争もできず、選挙の時の判断基準が危うくなります。トランプ氏自身はもともと名門校出身の知的エリートのはずです。しかし、世渡りやビジネスに役立つインテリジェンスはあっても、都合の悪い事実も受け入れて物事を客観的に捉える知性には欠けています。

ツイッターやインターネットの浮ついた情報や匿名の情報源に頼っていたら、思考力が劣化するのは明らかです。学術書や各分野の古典と言われる書物をときどきは読み、ぶれない思考の軸をつくっておかないと、新しい現象に出会うたびに右往左往することになります。

国際政治学者でジャパン・ハンドとしても有名なジョセフ・ナイは、次のように言います。

情報の氾濫は「豊穣のパラドックス」をもたらした。情報の過剰が関心の希少化をもたらしたのである。人々は膨大な情報に直面した時、何に焦点をあてるべきかを見極めることが困難になる。情報よりも関心が希少資源となり、背後の雑音から価値ある情報を区別できる者が、パワーを得る。編集や進行にかかわる者の需要が増し、このことはどこに注目すべきかの指示を出せる者にとってパワーの源泉となっている。

インターネット上にあふれる情報に流されず、的確な分析や解釈、意味付けができる人材がいまの時代は求められています。そういう人材の知的基礎体力は、インターネットでは身に付きません。知的な基礎体力は、体系的なトレーニングを受けたり、本や論文を読んだりすることでしか身につかないと思います。知的基礎体力を身につけた上でインターネットを使って情報収集をするのはよいのですが、ろくに知的なトレーニングや自己研さんもせずにインターネット情報に依存するのは危険です。

分断が進む社会で孤立した個人が、インターネットで耳に心地良い情報ばかりを拾っていくと、排外的なナショナリズムにおちいりやすくなります。「日本はこんなにすごい」とか「世界で愛される日本」みたいな、批判的精神を摩耗させるような情報ばかりに接していると、すぐにネット右翼化してしまいます。トランプ支持者や英国のEU離脱派も「ネトウヨ」的な感性に近いのだと思います。健全な批判的精神を持ち、自分自身をも冷めた目で見ることができる人にならないと、トランプ現象に取り込まれてしまいます。

おそらくネットの影響は、日本とアメリカで大差ないでしょう。基礎的な知識や理論を理解した上でネットで情報収集するのは有効です。ネットはうまく使えば便利です。他方、最初からネットだけに頼るのはとても危険です。たとえば、小学校段階からインターネット教育に走るのはいかがなものかと思います。子どもたちには落ち着いた読書の方が必要です。

最後にトランプ氏に知っていただきたい、英国のマイケル・フット労働党党首の言葉をご紹介します。

権力の座にいる人には、本を読む時間がない。しかし、本を読まない人は、権力の座に適さない。

ときにはスマホを手放し、まともな本を読む時間をつくることが、まともな政治家になるための最低限の必要条件だと思います。また、つぶやいてばかりのポピュリスト政治家のツイッターをフォローしないことも大切かもしれません。インターネットが民主主義の劣化を招かないように、インターネットの使い方に注意しなくてはいけないと思います。


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